Sam Gendel,
Benny Bock
& Hans Kjorstad
- dream trio

サム・ゲンデル,
ベニー・ボック
&ハンス・チョースタ
- ドリーム・トリオ

昨年6月に盟友サム・ウィルクスとのデュオ、11月にPino Palladino and Blake Mills featuring Sam Gendel & Abe Roundsのメンバーとして、高次元のパフォーマンスを見せたサム・ゲンデルが「FESTIVAL FRUEZINHO 2023」に再び登場。しかも今回は、ベニー・ボック(Benny Bock)、 ハンス・チョースタ(Hans Kjorstad)の真新しいトリオを率いての登場となる。

まずは、日本では余り馴染みがないであろう2人のメンバーの経歴から紹介しよう。

ベニー・ボックは、カリフォルニア州オークランド出身のキーボーディスト、作曲家、プロデューサー、サウンドデザイナー。オークランドのシンセサイザー修理工場で働いた経験や、大学でシンセサイザーの世界に数々の発明をもたらしたエンジニア、トム・オーバーハイムに師事したシンセサイザーのスペシャリスト。クラシック理論、民族音楽、ピアノの調律やサウンドデザインなどを学び音楽に関わる幅広い分野での経験の持ち主だ。
現在はLAで音楽活動、作曲家、セッション・ミュージシャン、シンセサイザープログラマー、スタジオエンジニアやテレビや映画のための作曲など多方面で活躍。FRUEではお馴染みブレイク・ミルズやサム・ウィルクスとのライヴ共演や、ヴァン・ダイク・パークスやブルース・ジョンストン(ザ・ビーチ・ボーイズ)などレジェンドたちのレコーディングに参加。メインストリームで最も有名な仕事は、ザ・ウィークエンドの最新作『Dawn FM』での「Here We Go...Again (feat. Tyler, the Creator)」の共作者/プロデューサーだろう。裏方サポートでの抱負な経歴に加え、昨年はリーダーとしてのアンビエント・ジャズの作品『Vanishing Act』をリリースしている。

一方、ハンス・チョースタは、ノルウェー出身のフィドル奏者/作曲家、キーボード奏者。地元グドブランズダーレンの民族音楽のコミュニティで10代からジャズや即興音楽を開始。トリオMiman、Frode Haltli、Billy Meierなどノルウェーの音楽シーンで即興音楽、民族音楽、ポップミュージックを行う他のプロジェクトにも深く関わってきた。個人名義の2枚のレコードでは民族音楽的と実験的な即興の見地からマイクロトーナル・ミュージック(微分音を使った音楽)を追求しているアーティストだ。

そして、サム・ゲンデルといえば昨年2022年も怒涛のリリースラッシュだった。Antonia Cytrynowiczの純朴なボーカルに寄り添うように演奏したコラボの逸品『 Live A Little』に始まり、未発表トラック集『Superstore』、日本の刺し子にインスピレーションを受けた最新作『blueblue』、さらに前述の“サム&サム"デュオの続編「MUSIC FOR SAXOFONE & BASS GUITER MORE SONGS」と立て続けにリリース。2023年も早くもNonesuchから90年代のR&Bを分解、再構築した問題作「COOKUP」を発表、滝のように流れ落ち、間欠泉のように吹き上がる創造力はとどまることを知らない。

毎回「未知数、予測不可能、何が出てくるかわからない」と紹介文に並ぶゲンデルのライヴだが、今回はさらにノー・インフォメーション。現時点で唯一手がかりとなったのは約1ヶ月前にユーチューブに無造作にアップされたゲンデル/ボックによる「el sereno」という動画のみ。この動画では、ボックがテスターやアドバイザーを努めているという英UDO Audio社のキーボードでミニマルなフレーズを奏で、ゲンデルがベース?を弾いているという茫漠としたセッション映像で、このプロジェクトの完全体を掴むには至らないが、かなりギーキーな3人であるのは確か。いずれにせよ、目まぐるしい速度でアウトプットし続ける「サム・ゲンデルの現在地」を、是非その目で確かめてください。

text by Hideki Hayasaka