「エッシャーの絵を思い出させるようなリズムで、とても美しい瞬間もあれば、熱狂的で反復的な瞬間もある、熱の夢のような作品」(RYN「Sankofa」レビューより)
「Amaro Freitasの音楽は、神話的な過去をしっかりと見据えた上で、未来へと進んでいく」(DOWNBEAT「Sankofa」レビューより)
「Amaro Freitasとそのメンバーたちは、才能あるミュージシャンというだけでなく、今や希望です Artur Barros氏の「Sangue Negro」レビューより)」
伝統の継承を明哲な表現力でキーボード演奏の新たな地平を切り開くブラジル新進気鋭のピアニストは、ブラジル北東部ペルナンブーコ州レシフェ出身。
Amaroは父親の指導のもと、教会のバンドで12歳からピアノを演奏し早々と神童ぶりを発揮し名門音大ペルナンブカーノ音楽院に進学するも金銭的な理由で退学。その後は、ウェディングバンドで演奏し、コールセンターで働くなど音楽キャリアの出だしは決して順風満帆なものではなかった。
しかし、Chick Coreaの演奏に魅了されピアノを弾くことが明確な人生の目標になってからは、地元のレストランで開店前に練習するなど研鑽を重ね、22歳になる頃にはレシフェで最も有望なミュージシャンとしてジャズバーMingusの常連ピアニストとなった。ここでベーシストのJean Eltonとドラマー、Hugo Medeirosと出会い、Amaro Freitas Trioが誕生することになる。
これまで、Amaroは3枚のアルバムを発表し、いずれもアフロブラジルのマラカトゥやフレヴォなどの地元の音楽から影響を受けた斬新なアプローチは高く評価されている。
デビュー作「Sangue Negro」(2016)は"黒人の血"タイトルが体を表すとおり、ビバップ、アフロジャズなどビバップ、アフロジャズなどのレガシーとルーツとなる音楽の融合と調和、「Rasif」(2018)ではよりピアノ演奏に打楽器的なエッセンスを先鋭的に取り入れ、「Sankofa」(2021)では、奴隷制度以前、遥か古来から伝わる黒人の伝統的営みをインスピレーションにより繊細かつ情熱的なタッチで表現している。
あくまで一例だが、Amaroが紡ぎだす不穏に反復するポリリズムの生み出す浮遊感、捻くれているが気品溢れるメロディ、Jean Eltonの静穏でミニマルなスウィング感、6/4、7/8など変則的なHugo Medeirosのリズム、規定の枠に収まらない挑戦的な側面もであるがこのトリオには整然とした美しさがある。
これまでも伝統と現代との融合や歴史的遺産のモダナイゼーションは数多く繰り替えされてきたが、Amaroは精神性も含め「過去を現代にひき戻し未来に繋げる」という途轍もない仕事をやり遂げている音楽家だ。その過程に是非立ち会って欲しいと思う。
text by Hideki Hayasaka